能登のキリコ祭り

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寄稿 02

キリコ―

構造と意匠からの考察

見る人の目線を考慮して制作

 キリコの高さは、奉灯(胴体部分)の枠の大きさが基本となる。この部分は、広くは「コジョウ」と呼ばれるが、珠洲市の三崎・大谷辺りでは「オオジョウ」、寺家から鵜飼にかけては「ナカフク」、正院・蛸島では「ナカドリ」、飯田では「ガクフク」など、地域によって呼び名が異なる。「コジョウ」と「オオジョウ」をあわせ「ジョウ」とも呼ばれるが、これが「畳」を意味すれば、「古式のキリコは一畳=6尺×3尺(1.8m×0.9m)が基本」との高山哲典氏(珠洲市・羽黒神社宮司)の説もうなずける。
 大正期以降、キリコも巨大化の傾向を辿るが、地域によって「ノッポ型」、「ズングリ型」に分かれる。キリコの制作には大工が当たることもあるが、集落内の建具職人などが制作することも多い。寺家の大キリコを制作した菊谷正好氏は、キリコが実際に立った時のバランスを重視したと語る。また、キリコの正面には大書や浮き字の紋、背面には観音菩薩、大黒天などの神仏のほか、義経伝説に擬えた勇壮な武者絵、「アネゴ」と呼ばれる美人画などが描かれるのが一般的だが、近年ではアニメ・キャラクターのキリコ絵も多くなった。キリコ絵師でもある成之坊良輔氏は、「人の目の高さから眺めた時の構図の歪みと色の輝きを想定して描くため、独自の技術と経験を要する」と説く。

細部へのこだわりと工夫

 キリコ上部から意匠の特徴を見ると、屋根は切妻の形式で地板は化粧板とし、妻が合わさる部分には「懸魚(けぎょ)」と呼ばれる飾り板、棟には「鳥衾(とりぶすま)」と呼ばれる丸瓦を付するものがある。寺社建築の意匠ではあるが、どちらも火除けの意味がある。
 屋根の下の奉灯最上部の飾りは、地域によって御幣、榊、注連縄、酒樽と異なるが、能登町には旭日旗を飾る集落もある。また、キリコを担ぐ地域では、奉灯下部の高欄(欄干)に榊を立て、神籬(ひもろぎ、神様を迎えるための依代)とする場合もある。加えて、奉灯上部を提灯やボンボリで照らすのも、「キリコが派手に進化した頃、屋根裏の鏡板に施した金箔や龍の彫り物の装飾を光で浮き上がらせるのが起こり」との古老の話も紹介しておきたい。
 奉灯下部の高欄は、和様の組高欄か擬宝珠(ぎぼし)高欄のいずれかの様式とし、金具で装飾を施すものも多い。コジョウを支える四本柱をつなぐ桟などの横架材は、貫(ぬき)の構造とし、激しく揺れるキリコの構造的な堅牢さを確保している。
 キリコは強靭さを要求されるため、主要材にはアテ(能登ヒバ)を、力のかかる部分には樫が使われる。アテはヒノキに似ているが、繊維密度が高く重量が嵩む。塗料は、近年ではカシュー塗料も増えたが、珠洲市の正院・蛸島以北では、材の継ぎ目を消すため本漆とするものが多く、ケヤキの彫り物などが加わるとその重さは数トンに及ぶ。

寄稿者プロフィール

石川工業高等専門学校
建築学科 准教授/博士(工学)

熊澤 栄二 さん

●石川県河北郡津幡町在住。学生の建築設計教育に携わるとともに、石川県建築賞や中部建築賞の審査員も務める。「奥能登珠洲のキリコ祭りを事例とした観光戦略手法の構築についての研究」の成果として本稿を掲載。

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