キリコ祭りでは「ヨバレ」という招待風習があり、各家庭で親戚や知人、仕事でお世話になっている人などを招いて、この日のために特別に用意した祭り料理「ごっつぉ(ご馳走)」でもてなします。
近年は仕出しも増えてきましたが、本来、自宅ですべての料理をつくります。準備は1年をかけて食材を集めるところから始まります。「春、山菜採りに行くと、ヨバレ用にと一所懸命採って、カゴいっぱいになるがや」。楽しそうに話すのは、珠洲市馬緤町在住の中平よう子さんと国永一子さん。ゼンマイやワラビなどは多めに採り保存しておくなど、ハレの日を支える意気込みが伝わってきます。
「ふだんから、おいしい料理に出会うと、『これ、何つこうたん?』というて、材料やつくり方を聞いてみるがや」と研究心も旺盛です。
ごっつぉは、能登の豊かな海山野の幸がふんだんに使われた郷土料理で、地域によって特色があります。一人ひとりに漆塗りの膳を整えてもてなすのが基本です。
お二人が暮らす珠洲の海辺の町では、一の膳に赤飯と汁物、昆布巻き、尾頭付きの魚、山菜や豆腐の煮ものに、刺し身。二の膳には茶碗蒸し、飾り切りした野菜の炊き合わせ、海草やくずきりの盛り合わせなどが載り、お膳からあふれんばかりです。珠洲市三崎町などのようにイイダコの煮物を出す地域もあり、能登町柳田など内陸部では、かつてはウグイやアユなどの川魚のなれずしが必ず出されたといいます。
女性たちは、祭りの数日前から乾物を戻すなどの準備に取りかかり、当日は朝早くから調理を始めて夕方までに仕度を整えます。「家でつくるさかい、女たちは総出や。ほんなこって(このようにして)、ヨバレのごっつぉが家々や集落で伝えられてきたんや」。
また、このときばかりは無礼講が許されます。酒もふるまわれ、若い衆たちは酒を飲んで勢いをつけてから、キリコを担ぎに出かけます。
ヨバレは、能登一円で受け継がれてきた独自のもてなしの文化。膳を一緒に囲むことで、絆を確認し、親睦を深める大切な場です。
中平よう子さん(右)と
国永一子さん(左)に
お話をうかがいました。